邦人誘拐事件

憶測が憶測を呼んでとんでもない見解まで飛び出す邦人誘拐事件だが、事件のキーワードは一貫した一貫性の無さ、だと思う。


最初、3日で殺すと報じられたとき、その政治的配慮のなさから殺害ありきの反米デモンストレーションしかも、即席組織の単なる蛮行で、政治的組織的規模は小さいと感じた。
したがって、政治的解決や交渉による時間の引き延ばしはほぼ不可能と思われた。


入国とほぼ同時の拉致であることから、特定の人物を狙った誘拐とは思えなかった。また、あえて狙うほどの標的でもなかった。
そのことから、国境を越えてくるルートで待ち伏せをしてワナにかかる外国人を待っていたことが伺える。
あえて日本人を選んだのかどうかは不明。日本人を狙うことは比較的簡単だったかも知れない。(中継点が同じで行動がパターン化されているから)


しばらく考えると、3日という効果的な日数、しかも単なる蛮行であるなら3日間という危険な時間を待たず殺してから声明を発表したほうがはるかに安全な点、などを考えて、犯人側にある程度の意図や計画があるように思えてきた。


また、CD−Rに焼いた映像。
他の拉致事件自衛隊砲撃とは関連性のない声明。
他の事件よりも、明確な目的を持って行動したのか、と思われるような特異性が目立つ。


それは、やはり目的が明確だから、なのだろうか?


わたしは、単純に、それは実行したグループのリーダーが他の事件のリーダーよりわずかに高杉晋作していた、のじゃないかと勘ぐる。
そんな印象を持った最大の原因は、明確な目的があるように思えるが、それがなんなのかはっきりしないところ、主張に固執しないところだ。
犯行声明は「アメリカの友の血を流すこと」と「自衛隊の撤退」どちらも同等に扱っていて、どっちに転んでも成功する仕組みになっているが、逆に、真の目的はどっちなのかはどうでもいいことも表している。


そして日本政府の撤退せず発言。
そして開放声明。
24時間で開放の撤回。
そしてさらに取引。


つまり、こういうことか?
彼らは攘夷を掲げる志士に非常に似ている。
混乱と悲劇で極度の興奮状態にあり、人の命も自分の命も軽く見ている。彼らの望みはイデオロギーに殉じること。
彼らにとってみれば「領事館焼き討ち」でも「御所に火を放つ」でも「天子を擁して大和に新府を開く」でもなんでもいい。
彼らの行動の結果が「自衛隊撤退」でも「邦人殺害」でも「身代金」でもなんでもいい。


本来の目的は「時流に乗ること」だからだ。


そして、拉致が成功してみると、さまざまなルートから、さまざまなオプションが勝手に向こうからやってくる。
彼らは多くの選択肢を得て、どれでも達成できると思っている。
いくつかのルートから来る交渉人は、実は彼らを利用して自らの目的を達成しようとしている。


その結果、事件が流動化しているように見える。


客観的に見れば、すでに周辺の思惑で利用されることが始まっているのだ。


彼らはやがて身動きの取れない大きな流れに飲み込まれていくのではないか。


結局のところ、アメリカの停戦や、主権委譲後の政治的駆け引き、の二題問題のどちらかの道具になるだろう。


しかし、だ。


日本が独自で解決可能なルートは金銭的な交渉だろうが、そのルートは前述のような政治的な目的達成より魅力がない。


その代わり、仲介料をアテにした交渉人が交渉の可能性がなくなったとたん犯人グループを売る可能性が出てくる。
日本がアメリカに救助要請をしたという事実は、すでに売買価格の交渉段階にある、と見ていいのではないか。


救助要請が極秘ではなく公にされたのは、国内の小泉なにもしてない論を封じるのと同時に、日本が本気で「買う」ことを仲介人に証するためであるように思えるのだが。


追記(2004/04/13 0:52)
アメリカの停戦交渉と南部戦線再燃で緊張が高まってきているので、人質は重要性を増しているように思える。
もうすでに人質の移動が行われてしまった可能性を忘れていた。
長期化する可能性が高くなったように思われる。


追記(2004/04/14 19:04)
自作自演疑惑について。
わたしも本文で述べたように、CD−Rに焼いた映像をばらまくというのは、非常に特異な感じがした。
このようなことから端を発して自作自演説がネットに蔓延している。
ところが、肝心の根拠について記した部分が、掲示板のスレッドが流れて簡単にチェックできなかった。
おおざっぱに以下のようなことらしい。


CD−Rを焼いたのは人質のiBookではないか?
CD−Rはイスラエル製のメディア
撮影されたのはソニーの新型CCDカメラ
撮影された実行犯たちがスニーカーを履いている


これらは当然被害者のものを使っていると考えてもいい。


また、犯行声明文についてのつっこみもかなりあった。


コーランの引用がない
スペルミスが多すぎる
西暦を使っている


犯行グループが小集団だとすると、トップレベルの人間の学問も知れているのではないか、という可能性と、犯行声明文は複数ルートで捏造された可能性がある。わたしは後者を取る。
どちらの可能性も、自作自演の可能性より高いと思う。


また、アディダスのスニーカーやイタリア製の武器など、地元の人間の生活レベルと不似合いなものを身につけているという指摘もあったと思うが、犯罪者というのはたいていの人より生活水準は高い。
彼らが職業犯罪者である可能性の方が自作自演の可能性より高い。


自作自演に対して決定的に懐疑的なのは、はじめて旅行に参加するようなトッポイ兄ちゃんを仲間にするはずがない、ということ。ジャーナリストも然り。不自然すぎる。


追記(2004/04/19 19:59)
編集後の画面からトラックバックを送ると編集は保存されないらしい。無意味にトラックバックされた「極東ブログ」に陳謝。


UPしそこなった部分を思い出しながら書く。


なにはともあれ邦人解放はおめでたい。惨劇ビデオが流れることを想像していなかったわけではないだけに、よかったと思う。
しかし、帰国後の人質の態度が再び物議をかもしているらしい。
ただ、彼らは自らの信義に殉じてイラクへ行くような人たちである。結果としていろいろな人に迷惑をかけたとしても、家族に嫌がらせをしたような一般市民に行動の軽率さをなじられながら頭を下げることが「一番苦手」な人たちだろう。
事件中のマスコミと家族の摩擦、一般市民の嫌がらせ、ネットの自作自演説など、ストレスから開放されたばかりの彼らにはちょっと過酷な状況ではないだろうか。少なくとも遭難しては年間何億もの捜索費を浪費させる登山愛好家のように「ご迷惑をおかけして・・・」という会見を期待するのはどうかと思う。
いっそ政府批判を含めた過激な会見でもしてくれればいいのだが、それはこんどこそ家族が必死で止めるだろう。いよいよ自作自演と言われてしまう。
まぁ、そんな会見拒否にワクを空けて待っていたマスコミが肩透かしを食った腹いせで「自己責任」へと論調が振れたとしてもそれはそれでありうることである。マスコミなんてそんなもん。
それで更に緊張して弁護士登場と、相互不信の気の毒な状況である。
彼らの緊張がほぐれるまでちょっとほっとけば、ほっといても発言したくなる人たちなのに、と思うだけ。


ついでに、自分が書いたことにちょっとけじめをつけておく。
グループに高杉晋作的リーダーがいて、と書いた部分。
映像に演出があったとする報道が出るなど大筋で事実もそんなもんかなと思えるが、先に開放されたフランス人によると捕まったあとで処遇をめぐる議論がなされ、殺せ派とフランス人を殺しちゃまずいだろう派で意見が分かれどっちへ転んでもおかしくない状況だったとあった。今回に限ってリーダーが居たとするのはわたしの読み違いだろう。きっと総論として高杉晋作的示威行動になったのだと思われる。
また小グループだと思ったと書いたが、転々と居場所を移ったという人質邦人の証言から、犯罪者や小グループのアジトに隠されたという印象は間違いで、方々に支援者が居たと思われる。


結局、筋金入りのプロ市民は誘拐犯たちだったのではないか?


追記(2004/05/01 23:27)
人質の会見をWEBニュースで読む。


筋金入りのプロ市民ではなく、武装市民だった。
事件の流動性、明確な目的のないこと程度はあたったようだが、人質の利用度に対する評価はわたしの方が誘拐犯より重くみていたようだ。後々まで交渉材料にされて長期化するほどの価値はなかったようだ。これはわたしが間違った。


記者会見の内容にさして感想はないが、ジャーナリストの彼の話に一番奇妙なものを覚えた。自分たちは危険だから行く、自己責任だと言われるのは心外。それはないだろう。彼にだけは堂々と自己責任でやりましたと言って欲しかった。(政府から金を請求されてはたまらんから、気持ちはわかるけど)
彼のスタンスとして、テロリストをレジスタンスと表現したいのならそれもいい。ジャーナリストとして現地で見てそう思ったのならそういう見方があってもいい。ぜひ、もう一度現地へ行って、彼らの側から報道して欲しいと思う。


それよりも、報道からの引用に終始して、(政府が意図して流したかもしれない)数々のデマゴーグにやすやすとひっかかったネット論客たちのたわいのなさが際立った事件だったな。
漏れもちょっとは反省汁とでも言うべきか。