経営についての考察4

わたしのこのシリーズは果たして「新規開業」のためのものだろうか、それとも、すでに稼動している会社をファインチューニングするためのものだろうか。
実は、書きながらそれらが明確ではないなぁと気づいている。
まぁ、シリーズといいながらも、部分的にあるいは感覚的に適当に応用すればいいのではないか、と思う。少なくとも一流会社の作り方や、カルロス・ゴーンのようなことが簡単にできるとは思っていない。
どこにでもある企業の若旦那が、ちょっとくらい会社について考えてみたいけど難しい経営手法はうちの商売に応用できるとは思えんし、いらんしなー、程度の要求に多少のヒントにでもなれば十分、といったところか。
今回は、「いかにも」というお題目で、耳にタコかも知れない。しかし、わたしの会社はこの部分がきっかけで大きく様変わりし、そこから成長をはじめたのだ。
特に、わたしが取り上げることはほとんど投資が必要のないことばかりなのにぜひ注目して欲しい。単なる発想の転換だけなのだ。


どんな会社にも作業の流れというのがある。
発注がなければ出荷はないし、営業活動をしなければ注文は来ない。自分の会社の作業フローを徹底的に洗い出して図式してみることが重要だ。例えば、経営者は意識したこともないのに、実はある命令が出ないとある作業ははじまらない、というキーイベントがいくつかあったりする。作業手順を変更することで思ってもみなかった新しい作業フローが発見できるかも知れない。
このような業界の慣例を無視した作業フローからはじまる新しい経営スタイルが、小さな差別化を生むことになる。


◎作業フローを洗い出せ
ある会社の営業の作業フローはこうなっている。
商品の選択→広告作成→チェック→広告→(客からの問い合わせ)→応対
このすべてをベテラン営業がエリアごとに個々別々に行っていた。営業が直接行っていないのは広告の作成だけだった。そして、経営者はなぜこんなにも広告の効率が悪いのかを考えていた。実際に広告は頻繁に赤字を出していて、いつどのタイミングで広告するか営業も極度に神経質になっていた。当然だが、広告による成果は営業の経験と勘の成果と考えられ、ヒットを飛ばす営業に報酬をまわすため、ヒットを飛ばせない営業には給料が払えなくなった。
結果として、歩合制の会社とならざるを得なかった。
結果が悪いと強く叱責されるので、結果が悪ければ悪いほど、広告は間遠になり、会社全体の売り上げはいつも低迷する。


ここで、経営者は延々と続けられてきた作業フローに疑問を感じ始める。


なぜなら、経営者はプログラミングの基礎を知っていたからだ。
プログラミングではいつも必ずフローを考える。それは適切な答えを出すために、まわり道や無駄な作業をしないためである。
プログラムが行うべき内部ルーチンとユーザーが決定すべきイベントは交互に適切なタイミングで交わらなければならない。ユーザーが予期しない先の作業まで一気に行ってしまうプログラムや、あまりにも頻繁にユーザーに問い合わせを行うプログラムは存在価値が低い。
自分の会社は一方的に作業を進めすぎていないだろうか?
その結果、思い違いをしてしまっていないだろうか?
そしてユーザーの意向を見落としていないだろうか?
なんとなくそんな気がしてきた。


そこで、綿密に作業フローを検証してみるといろいろ新しいことがわかった。商品情報は主に営業の開拓した仕入先からの情報に頼っていた。ほかにも業界紙や知らない会社からのパンフレットはあったが、それらを利用することはあまりなかった。また、商品の選択は季節や前回の売れ筋などから営業が決定していた。営業は、イチオシ商品の見栄えをよくするために、紙面の多くを一品に費やした。広告の作成はデザイナーにやらせていたが、これにも営業がいろいろと口を出していた。
なにしろ、営業は歩合なので、作業すべてに関わらずにはいられなかったのだ。結果的に、仕入先はこちらの要望を組んでくれる気心が知れた相手とのつきあいを優先せざるを得なかった。社内のことに目が離せないので、出荷にミスがあるかも知れない新規の仕入れ先や独自のルールで販売ロットを決定する仕入先は極度に敬遠された。


広告すると、必ず「広告に載っていた以外でこんな商品はないか?」という問い合わせが発生し、広告商品への問い合わせがあっても結局希望に沿わないためのキャンセルも多かった。他商品への問い合わせやキャンセルのとき口八丁手八丁で自社の取り扱い商品を買わせてしまうのも、営業の手腕として評価された。


作業フロー図を見ていた経営者は単純なことに気がついた。
商品の選択の先になにか見落としているのではないか?
選択の幅がせばまれば広告の内容は充実しない。結果として客が要望する商品をラインナップできない。それが「こんな商品はないのか」という問い合わせやキャンセルにつながっている。もしも、十分に情報収集して、それらの情報を管理することに営業が経験と勘を生かしたら?


そこで、営業に仕入先を固定させることを禁じ、商品を選択することを禁じ、デザイナーに注文をつけさせることを禁じ、客に問い合わせ商品以外の商品を売りつけることを禁じた。
その代わりに歩合制を廃止し、営業には商品の品質の管理と新規仕入先の開拓、仕入先との打ち合わせを徹底させた。


広告のラインナップに載せるのは新規商品と前回の問い合わせ数の上位ランキング(掲載していない商品も含め)から一定のルールで選択した。この方法なら経験も勘もいらないので、パートにも選択できた。選択ルールが簡単だし、商品と仕入れに営業が目を光らせているので、商品ラインナップを数倍に増やしても広告の作成作業や仕入れ出荷作業は滞ることはなかった。事実上、客に広告を編集させているのだから客の反響がよくなって当然だった。


問い合わせ数はすぐに数倍になり、営業が手八丁口八丁を使わなくても、客は希望どおりの商品を買っていった。


そこで、広告の回数は売り上げでいちいち加減せず、短期の赤字は無視して常に定期的に入れることにした。その結果、他の同業者が広告する数倍のサイクルで広告を打つことが可能になった。新商品情報はもっとも早く提供でき、知名度が徐々にあがりはじめ、昔ながらのサイクルで広告する他の同業者の売り上げは見る見る減っていった。


情報の収集→仕入れ先の新規開拓→商品と仕入れ先の調査→(顧客による選別)→広告→(問い合わせ)→応対


最終的な営業の作業フローはこうなった。