○真実の愛のみつけかた

K生だったころ。




当時、わたしの周囲はそらもういろいろ(な意味で)色めきたっていて、しかし所詮は「妥協線上のオトコの友達は、妥協線上のオトコの集団」だったわけで、したがってその結末は、イタイタしくも悲しいものばかりだった。なかには、あっけなくこっぱみじんに粉砕したにも関わらず、あまりのあっけなさにそれを誰にも言えず、かといってその思いを断つこともできず、いつまでもぐだぐだ思いわずらい、その姿に余計みなの同情をあつめたあげく、みんなの勇気をもらってひくにひけなくなり、なかば無理やりに二度目振られるやつまででるシマツ。

まさに「これっぽっちもがまんできませんでした系自己崩壊型失恋」の死屍累々。

どちらかというと、みんなの相談役だったわたしとしては、もうやめてくれと叫びたくなるような類型的集団飛び降り自殺の騒動の中で、やがて悟りすぎるほどに悟ってしまったのだ。


相手の気持ちや立場も考えず、ましてや、相手にとって自分が価値あるオトコかという内省も忘れて、ただ自己中心的で感傷的な想いを炸裂させ、相手を恐怖のどん底へ突き落としておきながら、通じぬ思いに泣きくれる馬鹿野郎どもと、その膿んだ傷を喜んでべろべろ舐めあう腐りきった友情。








こいつらが相手をシアワセにする恋愛などできようはずがない。







そう思い知るさなか、それは神の見えざる右手のなせる技か、それとも単なる偶然か














わたしは恋をしてしまったのだ。










しかし、当然のことながら、それは恋などというよりも、自己中心的で感傷的な想いとの、おぞましくもすさまじい戦いであった。


まず、この胸の高鳴りも、この震えるこころも、濡れたひとみも、自己中心的で感傷的な想いの表現型でしかないかもしれないことを恐れていたわたしには、まずまっさきに彼女への「真実の愛」が本物かどうかの確認作業が最優先された。もしも、本物だったとしても、それからどうしていいかわかるわけはなかったのだが、とりあえずの敵はうちにあり、である。自分の感傷を祭り上げた恋愛騒ぎの薄っぺらさはさんざん見てきたし、それを全開に露出したら相手が死に物狂いで逃げてゆくことだけはわかっていた。感傷を制御するためには、感傷の醜さを自覚しコントロールできる、真実の愛の強さが必要なのだ。


それは一見遠回りのように見えるが、あれだけ人の感傷の醜さを見ながらも、気がつくとポエムなんか書いて「やっぱりおれのは違うかも」と勘違いできるほどに、わたしもあやういところにあった。まさか、ここまで恋が強烈とは知らなかったのだ。


気がつくと、ポエムをしたためた手紙を投函しそうになったり、用もないのに電話しそうになったり、あまつさえ自分にはぜったいセンスがあって彼女はおれにメロメロさと妄想するに至って、事態はもはや一刻の猶予もなかった。


とにかく、この気持ちの虚構を暴かなくては。


もしこれが、単なる自己中心的で感傷的な想いでしかなかったら、それを確認する方法は簡単である。自己中心的で感傷的な想いの源泉といえばそれは性欲。ならば、性欲のかなたに真実の愛は輝いて見えるはず。幸いにも処理方法は知っていた。


とかなんとか、考えているうちに、その夜もムラムラと彼女に電話したくてたまらなくなった。ああ、あの声を少しだけ。


いかんいかん、ためらっているヒマはない、まずは、彼女の顔を思い出して























一回目。




















ふぅ〜。そして彼女を思い出す。よしよし、電話したくならないぞ。やっぱり、犯人は性欲だ。あやうくだまされるとこだったぜ。





よし、思い切ってちょっと彼女の顔を笑わせてみよう。にこっ。












あれ?












二回目。












ふぅ〜。ん?どうかな?ほらね?電話したくならないぞ。やっぱり、犯人は性欲だ。やばかった。



よし、思い切って彼女のジャージ姿を思い出してみよう。












あれ?












三回目。












ふぅ〜。おかしいな電話したくなるなんて、でも、もう、電話したくならないぞ。やっぱり、犯人は性欲だ。よしよし。



よし、思い切って彼女のショーパン姿を思い出してみよう。












あれ?












四回目。












ふぅ〜。おかしいなぁ、なんでだろう。でも、もう、電話したくならないぞ。やっぱり、犯人は性欲だ。ほらな、しょせん性欲だ。



よし、次はレースのブラ姿だ。












あれ?












五回目。












ふぅ〜。な、なぜ電話したくなったんだろう。でも今度こそ電話したくならないぞ。やっぱり、犯人は性欲だ。もうだいじょうぶだ。



よし、次はブラの紐をちょっとだけ肩から落としてみよう。












あれ?












六回目。(もはや、びくびくするだけ)












七回目。












八回目。(びくびくがぱふぱふに)












九回目。












さて、ここまで楽しく読んだみなさんへ、残念ながらこれはただのおもしろきゃいいだろというフィクションテキストではありません。



したがって、テキスト系日記では命ともいえるリズムを壊し、無残にも助長ですが、忠実に忠実に事実を再現させていただきます。












十回目。












十一回目。(ぱふぱふがちくちくに)












十二回目。












十三回目。(ちくちくはずきずきに)












十四回目。












十五回目。(ずきずきはずきんずきんに)












よ、よし、もう大丈夫だろう。












思い出す。思い出す。いろいろ思い出す。












想像する。想像する。いろいろ想像する。












なにも感じない。












電話したくないか?












いえ、まったく。












よしっ!












こうして、この死の彷徨のかなたにやっと真実の愛のその姿を









そう







まぎれもない事実を見たのだ。












真実の愛



























ここに無し!






















こうしてみずからの感傷を100%克服したわたしは、やがて恋愛において達人と呼ばれ、そして悪魔と呼ばれるに至ったのだ。