○ヒューマンデフォルトデザイン

誰かと一緒にいると、楽しい。
誰かと一緒にいると、安らぐ。
誰かと一緒にいると、がんばれる。


その誰かと別れたあと、ほんの数分でまた会いたくなる。


ついさっきまで、ダラダラとほとんど内容のない電話を続け、


ほとんど話すべきことがないことに気づきながら、


それでもなかなか切ることができず、


どうにかお互いにタイミングが合って、


やっと電話を切ったとき、


慣性運動のように頭の中に会話が続き、


ふと一人になったことに気がついて、


また、電話したくなる。


あれほど、もう話すことがないことを自覚していたのに。


これって恋?


これが恋?


そう?


そうなのね?




・・・・・・・・・・・・・・・・と勘違いする人がいる。(もう何も弁解すまい)


人はデフォルトで、寂しさを感じる生き物である。


あなたは、家族や友人や恋人に囲まれて生きてきた。


生まれたときから、そうだった。


もし、あなたが家族や友人や恋人との関係を絶たれてしまい
突然孤独に追いやられたとき、あなたは何を感じるだろう。


あなたは、今までたった一人の孤独を感じる事はなかっただろうか。


そのときのことを思い出してみよう。


あなたは、その不安と孤独を、とても異常な状態と考えたはずだ。


しかし、ほんとうにそうだろうか。


われわれは、つねに人と人との関係の中で思考し、生きている。


自分というのは、つねに人との関係の一方の端として存在しているといってもいい。
それは確かに事実ではあるが、逆に、人との関係の一方の端、としか自分が存在していないとしたら、とてもそれを「個人」とは呼べないだろう。


それは集団の単なる要素でしかない。


仮に、その集団の中で堂々と異議を唱えることができたとしても、その集団の中でユニークな存在だったとしても、その存在は集団の中でのみ価値がある。
実際、人間は社会的な生き物で、自らの脆弱性を社会性で補ってきた。
社会性も脆弱性も進化の過程で獲得してきた遺伝形質であることは間違いない。


もともと個々別々に生きる生き物なら、寂しさや孤独による不安感など獲得したりはしなかっただろう。それはそうなのだ。


しかし、「個人」というもの、本来の自分、本当の姿の自分とは、人との関係を切り離したところに、やはり存在する。


もし、たったひとりの状態に気づいた時、寂しさと不安だけを感じるとしたら、その人はデフォルトで「寂しく不安」なのである。


もしも、あなたがデフォルトで寂しく不安なだけの人間で、それを埋め合わせるために人間関係(愛や友情)を必要としているなら、その人間関係のもう一方の端にいる家族や友人や恋人が対話しているのは、個人としてのあなたではあるまい。


彼らが対話し、心を配っているその相手は、あなたの「寂しさ」や「不安」である。


もしも、自分の寂しさや不安を取り除く事で、相手も癒されているとしたら、相手が必要としているのは、個人としてのあなたではないく、あなたの「寂しさ」や「不安」なのだ。


人は、ひとりになると不安と孤独を感じる。
しかし、人はそれだけではない。
その向こうには、必ず思考し前進する「個人」が存在しているはずだ。


人は肉体的強靭さを捨てて、社会的システムによってより強力な生命力を得た。
寂しさや不安は、集団の一部として社会に適応するための大切な能力である。
そして、強靭な社会システムや、寂しさや不安という特殊能力が、最大限の力を発揮して守り抜こうとしているものこそ、実は「個人」としてのあなたなのだ。


まだ言葉のコミュニケーションが発達する以前、人は子供時代に一人遊びを覚える。


自分だけの言語を使い、自分だけの世界で遊ぶ。


その感覚を完全に忘れてしまう人はいない。


わずかな寂しさを感じただけで、それを「恋」だの「友情」だのと勘違いして、寂しさを紛らすためだけに誰かに電話をする前に、わずかの時間考えてみるべきである。


そんな自分を相手は本当の意味で必要としているだろうか?


あるいは、そんな「寂しさだけ」の自分を必要としている相手が、本当の意味で個人としての自分を理解し歓迎することができるだろうか?


寂しさと孤独こそ、人間の初期設定である。


寂しさと孤独は、人と離れたとき初めて生まれるものではなく、それもまた、自分の大切な一部なのだ。
それを理解し、その向こうで一人遊びをする自分を、たまには相手にし、たまにはもっと楽しい一人遊びをさせてあげるべきなのだ。


そして新しい一人遊びを覚えて、またひとつ自分がリフトアップしたとき、再び大好きな家族や友人や恋人と会って、その自分を見せるべきなのだ。


その刺激は波紋のように、関係というネットワークを伝わって、いくつもの新しいヒューマンデザインを生み出していくだろう。