○奇跡を呼ぶカオスエネルギー
経営学の基礎で、「利益率」というものがある。
経営の実態は「売上」ではわからない。
売上は上がっているのに、利益率が落ちていれば赤信号である。
しかし、実は売上対比の利益率にも落とし穴がある。
売上の合計が1億円で、純利が1千万円でも、運転資金が5千万円の場合と2千5百万円の場合では、同じ利益率だとしてもリスクが違う。
利益率を運転資金ベースで見ると、方や20%、方や40%の利益率の違いがある。
これが資金回転率というものだ。
では、資金回転率がよければすべていいか、答えはNOだ。
そのすべてを折衷して考えていれば大きな間違いは犯さないのだが。
大きな間違いを犯さなければいい、というなら、その人物は経営者失格である。
まぁ、優秀な経理部長あたりで満足していたほうが、いい。
経営者は、社員と株主に夢を与えなくてはならない。
成長、という夢を。
さて、そこで成長と言えば、いまから100年も昔に、人口予測というアプローチから町の成長を計算しようとした学者がいた。
彼が作った関数をシグモイド関数と呼び、今でもカオスを発見した初期の数式として有名だ。
さて、今日はこの関数について、文系のわたしが文系流のアプローチで考えてみたい。
シグモイド関数は、恐れるほど複雑なものではない。
X_{t+1}=a*x_t*(K-x_t)/K
という式である。
左辺 X_{t+1} は文系流に言えば「明日の姿」である。
右辺の x_t は「現在の姿」である。
そして a は成長率。「生きる力」と言っていい。
成長を直線的なグラフで表すだけなら、これだけでよいはずである。
問題は(K-x_t)/Kの部分。
同じ町で人口が直線的に無限に増えつづける、ということがあるだろうか。
食物や住宅問題、職場の問題で人口は必ず限界を迎えその手前で増加が停滞する。
町には「広さ」という抑制因子があるので、もともと存在する人口限界に近づけば近づくほど、プレッシャーを受けて人口の成長率は鈍るはずである。
実際に、日本ではすでにその限界にちかづいていて、人口は減りはじめている。
(K-x_t)/Kに話をもどすと、Kこそが臨界の予測値そのものだ。
文系流に表現するなら、Kは「目標」であり「ザ・ゴール(目的地)」である。
この式を文系流に解釈すれば、人口が限界に近づけば近づくほど、人口と限界人口の差(K-x_t)は、0に近づく。これを限界の人口でKで割ることで限界人口から見たマイナスの成長率「プレッシャー」が表現できる。(実はこの解釈では厳密に言うと式が微妙に違うが、ここはあえて文系流に、気持ちはそうだ、と言っておく)
現在の姿にプレッシャーと生きる力を掛け合わせて、明日の姿が決まる。明日の姿がわかれば、それをもとにおなじ計算を繰り返す。
と、こんな感じである。
そして、いろいろな成長率、いろいろな初期人口、いろいろな限界人口をこの関数にあてはめて、正確に町の成長を予言する公式を探し出そうとした。
そして、その結果、目的とちがうものを発見したのである。
成長率が1.4を超えると必ず、人口は一気に上昇し、次の瞬間に激減してグラフがでたらめになってしまうのだ。
人口爆発による飢餓ともいえる現象である。
しかも、どんな初期人口、どんな限界人口を与えても、成長率が1.35を超えたあたりで必ず振動がはじまり、わずかに成長率を増やしただけでグラフは予想もつかない模様を描く。
カオスである。
たとえば、成長率が低いと、人口は「限界」の遥か手前で増加を停止し、グラフは横ばいになる。
成長率が、1.35を遥かに超えたところでは、一時的に人口が限界とほぼ同じ値を示す。そして激減し、また盛り返す。
この式では成長率を「生きる力」とわたしは解釈する。
シグモイド関数は、人の生きざまを表していると思えるからだ。
生きる力が強ければ、強いほど、人生のグラフは混乱する。
生きる力が弱ければ、限界の遥か下で安定する。
人は、生きる力が強い人をともすると「詐欺師」と呼び、安定した生活を営む人を「良人」と呼ぶ。
しかし、成長率という数値上では、安定している「良人」であっても、成長率が高いほうが限界に近いところで安定する。
成長率=生きる力は強い方がすぐれているのは、良人同志でも同じなのだ。
そして、人生の限界に本気で挑むためには必ず生きる力は強くなければならない。
生きる力が強いと、人の信用は無くすが、恐れなければ良人の誰にも見ることのできないものが、限界点が、見られるのだ。