男がその気になるとき

ひょんなことからNPOに参加することになった。
普段目にすることが難しい最新の統計データや議会提出前の行政計画などに触れる機会があったりして、いままで小馬鹿にしていたなんたら市民会議だの市民フォーラムだのも、これはこれでなかなかに有用であることがわかった。


今日は初日だし、発言しないで黙って聞いていよう。


最初の15分はそのつもりだった。


30分たつころには、この司会者はじめて参加するやつになんで話題をふってこないんだ、と苛立ちはじめ、気がついていたら会議をとんでもない方向へ暴走させたまま喋り捲っていた。ダメじゃん。


教授『人口動態調査では若者の都市への流出が今後も懸念されます。若者を受け入れる産業誘致が必要です』
kido『これから産業を誘致してどうなりますか。それよりも老人ホームを建てまくって一大老人天国を創出するべきです。年金と資産をもった年寄りを全国から集めて、巨大な消費マーケットを出現させ、そこからサービス分野の産業を育成するべきです』


企業誘致で議論を進めるべきところへいきなりこれ。


教授『アメリカでは起業家の平均年齢は26歳です。日本では40歳。その歳になるまで、社会で信用を得ることができないし、資金が集まらないので経営ということに頭がまわらないのです。それで大企業で雇われることしか発想できない。
金融機関と行政がバックアップ体制を固めて、若年起業家を支えなければなりません』
kido『ちがいますよ。アメリカの起業家の多くは、同年代の若い起業家と商売をするから成り立つのです。日本で無理に20代を起業させたって全部倒産しますよ!それは、商売相手や、事業のパートナーに同年代が全くいないからです。
だから孤立するか、技術目当ての大手の子会社化するしかないのです。
若年起業家が失敗するのは、誰も商売相手になってくれないからです。ずば抜けた技術や能力があっても、営業もできないろくでもない社員しか集まらないからです。行政や金融のしくみを変えても、この世代ギャップはどうしようもありません。
絶対的に不利な20代を応援するくらいなら、40代こそ応援した方が成功するでしょう。アメリカ人は子供を持たない20代で野心を全開にします。日本は結婚して社宅に入って子供ができてからですよね。野心に火がつくのは。それまでは5時に退社することが最大の関心事です。
ひとりだけ野心に燃えても、資金や場所が提供されても、結局商売相手がいないのです』


若者に夢とチャンスをっていうワークショップにそれはないだろう。
ちょっと反省。


教授『では、若年を起業家として育成していくにはどうしたらいいですか?』
kido『大学のゼミで5〜6人のチームを作り、無給の役員として会社に経営参加させるべきです。零細企業の経営者のほとんどは帳面を見る余裕さえありません。帳簿の分析や未来予測で彼らにアドバイスしたり、役員として企業間のネットワークに参加させることで、若者に経営の面白さを教え、人脈を作るチャンスを与えます。帳面をきちんと統計処理してくれるだけで、経営者は大喜びするでしょう。無給なら雇う会社にとって損はありません。大切なのは、分析だけじゃなく、問題解決の手法を学生と経営者が互いに現場で実践することです。うちならよろこんで、学生役員を受け入れますよ。経営学的アプローチで行われる役員会議が、零細企業にどれほど存在していると思います?その空気だけでもうちに欲しいのです。経営学を学生に教えながら、そんなもの社会は求めていないと思ってませんか?
若者から学ぶことが多いと知れば、若者を経営者として認める素地もできるでしょう』


行政も金融機関(両方NPOの後援者である)も口出しする余地なし。
いきなりの現実論でしばし沈黙。


議論はいいから、明日からでもヤレという雰囲気は、アカデミックなワークショップで浮きまくっている。
なにしろ発足して2年間、議論に議論を重ねてきた最長のテーマ会議で、今日は統計発表と問題点の整理が議題だったのだ。


そこへ、これはどうだ、やるのか、やらないのか、ときてはスケジュールはめちゃくちゃである。


教授『でも、次回の議題もその次のも今日で終っちゃった感じですよね。さて次はなにをしたらいいでしょうか・・・』


で、そのまま、次回のワークショップはわたしが発表をすることになった。


はじめての参加なのに。


勉強会のつもりだったのに。


どーしていつもこうなんだ。