大切なものを捨てる

これは恋の話である。


あなたはモノを大切にするタイプだろうか?


いくらモノを大切にするタイプだからといって、小学校のとき大好きだったグッズを今も大切にしているだろうか?


そして、そのグッズは今もあのころと同じか、それ以上に大切だろうか?


そして、そのグッズは今もあのころと同じか、それ以上にキレイだろうか?


誰もが、好きなものは手で汚す。


好きなものほど、激しく汚す。


その手垢も、好きな間は気にはならない。


どれだけ周りから変な目で見られても、自信満々で持ち歩く。


が、しかし。


その好きなものが、本当に与えてくれた一番の感動はなんだっただろう?


包装紙を破った時、まばゆく輝いて出現した時の、あの興奮とトキメキは?


手垢で汚れたそれを持ち歩きながら、ここまで汚したのもこれが好きだからと誇りを感じたことだろう。


だが、それで本当に最初の頃の感動が続いたことになるだろうか?


そもそもあれだけまばゆく輝いていた、あの輝きを失わせてしまったのはなんだろうか?


なぜ、手垢をつけてしまったのか。


なぜ、そんなに大切なら、ちゃんと大切にしなかったのか。


ほんとうは、持ち歩いていることが好きだった。


大切にしまっておくよりも、持ち歩いて汚してしまうことが好きだった。


そんなことをぼんやり考えながら、自分がぼろぼろにしてしまったそれを捨てる。


捨てる。


捨てる。


人は一番大切なものを、一番汚してしまう。


一番大切にされて、汚されるほうが、まだましなのだ。


しかし、ほとんどの人は、一番大切なものを一番汚してしまう。


一番、美しいものに出会って、それが美しいまま、自分の手から離れた瞬間の切なさと誇らしさを胸に、ずっと生きていけることを知らないのだ。