○先を読む

世の中の進化というのは、めざましい。


歯ブラシなどは、毎年めざましく進化している。


洗剤もめざましく進化している。


ナプキンも進化している。


プラも進化している。


こういったたゆまぬ努力の結果、われわれの生活はどんどんどんどん進化していくのだ。


と、思うようなバカはこの日記の読者にはいないだろう。


実は、こういう類の「新製品」は「営業努力」によってもたらされることが多い。


実際の研究に基づいているものもあるだろうが、実際にはマーケティングによるニーズの掘り起こしで次々と新製品が生み出されていく。


例えば、でかくなる一方だったナプキン業界で突如


「後ろ姿すっきり!」


というニーズが発生する。これは「漏れない競争」の結果でかくなりすぎたナプキンが必然的に創造したニーズである。


つまり、常に最新の新商品がつぎのニーズを作っているのだ。


もちろん、今までも薄型ナプキンはあったが、ジーンズのお尻のアップで「すっきり!」とやられると、漏れない方向でどんどん怠惰に油断していた消費者の脳に、新たなニーズが出来上がってしまうのだ。


ブラジャーはある意味その逆で、見栄え重視で「寄せて上げ、詰め物満載」ブームが下火になるや、付け心地重視のニーズが盛り上がってくる。


これは、なにもメーカーの策略だけではない。


消費者も一体となっての、嗜好の必然的な変遷なのである。


仕掛けているように見えるメーカーも、実は必死になってこの変遷を「追っかけている」と見てもいい。


このように直前の結果が次の結果を決定していくプロセスは、株や天気予報など、世の中にいろいろある。そして総じて未来予測が難しいといわれている。
数ターム先なら読めるが、それより先は読めない、というのが常識なのだ。
ただし、株や天気はタームが一日単位であるのに対し、ファッションや新製品のタームが一年以上の単位を各企業が採用しているので、その予測の難しさの違いがここにでるように見えるだけだ。
例えばファッション業界で5年先の流行を予測することは5日先の天気を予測するに等しいのだ。
天気予報の予測が50%以上あたるのは2週間までが限度であるといわれているが、ファッションで14ターム先の変遷を50%の確率であてることはもっと難しいだろう。


ところで、ティッシュはもはやブランドも機能もまったく売上に貢献しなくなっているそうである。
どんな新商品を投入しても「5コいくら」で安く積み上げられているものが売れるそうだ。
こうなると、予測もへったくれもなくなってしまう。
そんなティッシュ業界にも企画室はあり、広報室もあるのだろう。彼らの仕事を思うと、ちょっと切ない気分になる。


なぜ、このような差が生じるのだろうか?


それは、今のタームが次のタームを決定するというプロセスに、いくつのパラメータが強く関わっているか、にかかっている。
歯ブラシなら「使用感」と「機能」などが関わっている。
ブラジャーなら「見栄え」と「着心地」と「色やデザイン」などが関わっている。このようにパラメータが増えれば、どれが飽きられ、どれがさらに強調されるのか、だんだんと予測が難しくなってくるのだ。


ティッシュの場合、「使用感」や「色」や「匂い」や「パッケージ」などのパラメータが存在するが決定的な役割は価格だけが担っているので、使用感や色や匂いやパッケージは無視されてしまう。


株や政治や会社経営でさまざまな正論が語られるのも、プロセスにいくつものパラメータが関わっているからである。


株の世界で取引のスピードが速くなれば、それだけタームが早くなっていく。利口な人間は短いタームで勝負をかけようとするが、タームとは一人で形成できるものではないので、無駄である。全体がそのように動くとき、タームでの予測が生きてくる。
株の場合、今は取引情報の更新に数秒かかっているので、秒単位の取引ならできるが、やがてミリセカント単位の取引にもなっていくだろう。


このとき、夜のニュースで扱う「今日の値動き」は数千数万タームを一度に扱うことになり、意味的には「十年の市場を振り返る」に等しくなる。


ところが、日々の値動きのグラフと十年の値動きのグラフを比べても目盛りに単位が書いてないとそれは区別ができない。


これが「フラクタル」=自己相似である。


このとき、それぞれのスケールのタームで影響を与えるパラメータが違ってくることが重要だ。例えば、数秒のタームで取引をするとき、世界の経済情勢はほとんど影響しないが、数年単位では最大の影響を受ける。


タームスケールの単位で常に「分けて」ものを考えることが重要なのである。


「次は何にどう対処すれば、とりあえず次のタームを生き残れるか」


だけを考えて、その時には他のタームスケールを見ないことが重要なのである。


世間で言う「ブレイクスルーの発想」というのは、実は、そのタームスケールにおいてもっとも重要なパラメータの見落としに気付いただけ、のことが多い。


そして、そういう見落としが「5年計画」とかの長大な予定など、別のタームスケールから持ってきたパラメータに縛られて発生することも意外に多いのだ。