人類のジレンマ2

id:mind:20040523では、mind均衡というチームとしての利得を優先した場合の均衡状態などについておもしろいトピックが書かれている。
一読をお勧めする。
今回はこれに触発されて続編となった。


まず前回のおさらい。
利得表を書いてみよう。

取りうる戦略
C:協力(Cooperation)
D:裏切り(Defecrion)


  Player.1\Player.2
        C      D

    C   RR     ST  

    D   ST     PP

S:裏切られる(=Saint)
P:相互裏切り(=Punishment)
R:相互協調(=Reward)
T:裏切る(=Temptation)


囚人のジレンマが成り立つには決まった条件がある。
効用の条件:S<P<R<T、R>(S+T)/2

前回わたしが協調したかったのは、

裏切られ<相互裏切り<相互協調<裏切り
という前提と
相互協調の利得が裏切った場合の平均より大きい
という前提のどちらかを崩せばジレンマは解消する、ということだ。

逃れられないジレンマに見えるモノも、実は前提が結果を厳格に規定している、とういことだ。


ここから、今回の本題になる。
この囚人のジレンマは、おどろくほど簡単な図式にも関わらず、税制や外交、組合問題、核兵器戦略など多くの事象においてこの状態を散見できる。
ところが、そのほとんどが、なぜジレンマに陥るのかの前提部分に遡る検証というのがない。


ジレンマに陥らないためには、どうすればよいのか?
ということである。


前回は、ジレンマの説明とオマケ的心理テストでほとんど終わってしまって結論があいまいなままである。


ジレンマに陥らないためには、前述の前提を崩せばよい。
さらにもう一つ、いつでもジレンマに陥るような選択からは逃れられる。


囚人は否応なしだが、このようなジレンマに突入せざるを得ない外交状況とはなんだろうか?たぶんいくつかのバインドに拘束された結果、無理矢理このようなジレンマにつっこむことになるのだと思う。
例えば、核兵器戦略を観てみよう。


核兵器を先に使用してしまえば自分たちに都合のいい世界を築ける。
しかし、互いに核兵器を放棄すれば人類滅亡の危機は無くなる。
もしも、互いに核兵器を使えば人類は滅亡する。
かといって、相手が撃ってきて何もしなければ自国が滅びる。


アメリカとソ連が取った戦略は「何もしない」である。
この時、アメリカは戦略的にそれがベストだと計算していた。
この時、ソ連は核を防衛兵器としてしか考えていなかった。


この結果、
有利な核兵器を作れば自分たちにとって囚人のジレンマは解消する。
という、「何もしない」状況を維持するためのドクトリンが働いて核の軍備拡張競争が始まった。アメリカの経済学者たちは、これでソ連が経済的に破綻すると完全に予測していた。そしてその通りになった。


そもそも、ソ連は空母や長距離爆撃機など、他国を攻めるための兵器はほとんど持っていなかった。し、他国侵略の意図はないと再三国連で訴えてきた。ソ連の軍事ドクトリンはあくまで専守防衛であり、挑発的な軍備は決して拡張しなかった。それに対して、アメリカは常に挑発的、攻撃的軍備を進め、ソ連より遙かに多くの国で紛争の火種になった。
すべては、ソ連を経済的な破綻に誘い込むための戦略であり、同時に政権を維持するための国内向けの戦略でもあった。


ソ連崩壊後、アメリカは仲間を売ることもなくまんまと釈放された囚人のような状況になった。ソ連は秘密を守る期限を全うするまえに獄死してしまい、アメリカはそうなることを読んでいたと言っていい。


今回強調する部分はここである。
囚人のジレンマには必ず前提条件があり、ジレンマに陥ったり、陥りそうになっても逃れる選択肢を持たない場合、または、ジレンマに陥らないために共通の利得が生じた場合、その上位のルールによってその状態は利用され得る、ということだ。


詐欺師がたびたび人をだますためには、99の取引が正常に行われ、相手もそれを当然と思うか、あるいは、相手は取引を壊すことが当たり前のような世の中であってはいけないと思っていなければならない。
完全な囚人のジレンマの状況下では詐欺師はいつもソンをしてしまうからだ。